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名古屋高等裁判所 昭和53年(ネ)684号 判決

控訴人 株式会社三幸工業所 ほか二名

被控訴人 国

代理人 棚橋隆 室峰良正 谷口勝憲 ほか三名

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人株式会社三幸工業所に対し金二一万円、控訴人三幸興業株式会社に対し金二一万円、控訴人植松義一に対し金六〇万円及び右各金員に対する昭和四八年四月一〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および書証の認否は左記のほか原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一  双方代理人の追加陳述

(控訴代理人の主張)

1  本件強制調査に際しての許可状請求行為は憲法三五条及び刑訴法一〇二条二項の趣旨を受けて規定された国税犯則取締法二条一・三項に違反する行為である。

(一) 即ち、憲法三五条の趣旨を受けた刑訴法一〇二条二項は被告人以外の第三者(参考人)に対する押収、捜索の要件として、特に「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限る」として第三者の名誉、信用、財産等を害することがないよう厳格な手続を要求している。国税犯則取締法における強制調査が、現実問題として国家権力による強制力の行使であり、その結果国民の権利を侵害する危険性がある以上、無条件に右憲法及び刑事訴訟法の理念がそのまま類推されるべきであり、この趣旨で国税犯則取締法は強制調査について刑事手続と同様な裁判官の許可状を要すると規定しているものと解さなければならない。しかるに原審における被控訴人の主張立証では控訴人会社らに対し「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合」との要件事実は何等見当らないにも拘わらず原判決はかかる事実が存在すると認定したものである。

(二) 本件強制調査には勿論裁判官の許可状が出ているけれども、その許可状の存在自体から被控訴人の許可状請求に至つた行為が適法であつたとの即断はできない。けだし許可状請求に際しては資料は添付せずに、持参だけして口頭で裁判官にその理由や必要性を説明するだけであることからして、そこに説明者の予断と偏見が入り込む可能性が極めて強いからである。本件でも証拠上これを疑わせるに足る十分な事実が認められる。従つて本件許可状請求については前記各法条に規定するだけの強制調査をしなければならない必要性があるとは到底認められないのに被控訴人の担当職員は故意又は過失(予断と偏見)により強制調査をする必要性ありと判断して本件許可状の請求をなし、これを執行したものである。

(三) 即ち、原判決はこの点に関し要するに、本件嫌疑者らが揮発油を本件五〇一号タンクに荷揚げする際、同タンク内で揮発油とキシロール等の溶剤を混和増量する方法をとつており、この五〇一号タンクは控訴人両会社が管理し、荷揚げの都度両会社の所長が受入数量を確認していたものであるから両会社が直接間接の証拠を有する者として本件捜索差押をなす理由と必要が十分存在したとして本件許可状請求行為を適法と認定判断している。しかしながら、右タンク内で混和増量する方法をとつて居るとの事実は本件全証拠をもつてしてもこれを疑わしめるに足る具体的証拠は認めることはできないし荷揚の都度受入数量を確認することが何故本件嫌疑事件についての直接間接の証拠を有する者となるのか理解不可能である。

(1) 先ずタンク内で混和(ブレンド)増量されたとの事実に関する証拠を検討するに、被控訴人の担当者田村保の第二回証人調書(昭和五一年二月二〇日施行)三枚目並びに一〇枚目以降一二枚目を見ると、タンク内ブレンドの方法に関して同証人に大きな記憶違いがあり同証人が予断をもつていたことが明らかに認められる。また、タンク内ブレンドのことを述べている証拠としては嫌疑者らの質問てん末書だけでこれ以外はそれを裏付ける証拠は全然存在しない。しかもこの質問てん末書は「タンクインの際ブレンドした」とか「インタンクの際ブレンドした」とかと抽象的に述べているだけでそのブレンドの具体的方法は何一つ話されていないのである。従つてもし本件五〇一号タンク内で混和増量されたとして、これを押収捜索の対象としたいならばそのタンクの所有者と管理者が第三者であることからして、既述の各法条の趣旨からしても少なくとも具体的混和の方法とその可能性の有無について物理的、化学的面から裏付調査をしたうえタンク内のブレンド方法を十分推認できる状況が客観的に存在すると認めたうえでなければ許可状の請求をすべきでないのに、本件ではかかる裏付調査は何一つやらず押収すべき物の存在を認めるに足りる状況などは全然ないのに予断と偏見をもつて許可状の請求をしたものである。

(2) 次に控訴人会社らが本件五〇一号タンクに揮発油が荷揚げされる際の数量を確認、把握していたことは当然のことであり、むしろそれが荷役を目的とする会社である控訴人らの主要な仕事であつて、本件の場合も<証拠略>によつて増減に異状のないことが確認されていることが認められる。

しかるに、この点<証拠略>によると積荷役協定書と揚荷役協定書の数量を比較した場合揚荷役協定書の数量が著しく増量されていることが認められるのである。これによつて被控訴人は揮発油と溶剤が混和増量されたとの事実を立証してこれが受入数量を確認していた控訴人会社らに対し本件強制調査の理由と必要性に関連する如く予断をもつて裁判官に説明し、本件許可状の発令を求めた疑いが強く、原審も又これと同様な誤解をしたものと思料する。しかしながら<証拠略>のうち、積荷役協定書(<証拠略>)は控訴人らと全然無関係のものであり、控訴人両会社はこれらの書類を見せられたことはない。換言すれば本件嫌疑者らは控訴人両会社に対し右<証拠略>(積荷役協定書)は秘密にしてこれを見せず、これに代るものとして別に作成(偽造)した<証拠略>(積荷役協定書)を示し揮発油と溶剤の混和による増量の事実を控訴人会社らに気づかれないように工作していたものと言うべきである。従つてかかる偽造書類を示して控訴人両会社を欺罔し本件五〇一号タンクに揚荷をしているということは控訴人両会社は全く無関係であり、かかる第三者の占有管理する五〇一号タンク内で嫌疑者らがブレンドを実行することは不可能であり、ましてや控訴人両会社がこれを知つているなどあり得ないことである。しかるに被控訴人は<証拠略>の書類に代るものとして作成された<証拠略>(積荷役協定書)の書類の存在を知りながら(<証拠略>)かかる偽造書類の作成理由やその行使方法、保管先等について何等の裏付調査もせず、疑問も持たないのみか嫌疑者らの供述を無条件で信用したものである。もしも右の偽造文書について裏付調査をしているならば、控訴人両会社について押収すべき物の存在を認めるに足りる状況などは全然認められないのに、それをやらずに予断と偏見に基き安易に第三者たる控訴人らに対し本件強制調査の必要ありと解しこれが許可状の請求をしたことは違法であると言わなければならない。

2  次に原判決は本件許可状の執行場所の特定について、何らの違法はないと判断している。しかしながら本件許可状記載の場所と具体的執行場所とは行政区画上異なつており、しかも位置も公道を挟んで離れている事実並びに現実の執行場所である行政区画上の所在地番を当時の被控訴人の担当者は了承していたこと(<証拠略>)からして、かかる場合本店所在地と現実の執行場所が行政区画上違つており、しかもその両者が特定できるにも拘らずこれを特定せずに単に登記簿上の本店所在地の表示のみで許可状を得て一括執行したことは具体的執行に際して執行者の恣意的、便宜的な解釈を認めるもので許すべきではなく、従つてかかる執行は人権保障の見地から違法と言わなければならない。

3  本件捜索差押に先立ち被控訴人の担当者が控訴人らに対し、これが捜索差押許可状を呈示し、本件嫌疑事実を告知したとの点は本件当事者双方が相反した証言をしているところであるから、どちらかを措信するためにはできるだけ客観的な証拠に基くべきである。しかるとき当時の立会人である名古屋市の吏員西小路治弘の証言では許可状の表の方だけを一メートル位離れたところから一分間に満たない時間指し示した状態だとのことである。これは許可状を呈示する目的が、被執行者に対しその内容を了知させることにあるとする以上一般社会通念上からして呈示又は告知があつたとは認めることができない。しかも西小路証人は第三者としての立場から極めて客観的に事実を述べていると考えられるので同人の証言は高い信用性がある。しかるに原判決はかかる客観的な証拠を措信しないで当事者である被控訴人の担当職員の証言やその報告書を措信してなしたもので、明らかな事実誤認である。

4  原判決は、被控訴人の職員らが控訴人植松の立会権を奪つた事実はないと判断しているが、この点は原判決自体が本件強制調査の立会人として名古屋市役所吏員西小路治弘を立会させていることを認めているもので、たまたま控訴人植松が場所的に同一室内に居たとしても法律上の立会権は認められないと言うべきだから、原判決の判断は間違つている。

5  本件強制調査の執行は日没後も継続され、非常識とも思われる深夜から翌日にかけて行われているが、当時の状況からして既に弁護士立会で強制調査に応じている以上、目的物件の隠匿、毀棄等は考えられず、ましてや第一項で述べた如く本件嫌疑事実に控訴人両会社は無関係な第三者であるため隠匿、毀棄すべき書類もなかつたのであるから、かかるおそれなどは全然認められないのである。しかるに原判決は第三者である控訴人らをあたかも嫌疑者と同一の立場においてこれを解釈しているものであつて明らかな間違いである。

6  被控訴人の職員らが嫌疑者自身でなく、第三者(参考人)である控訴人らに対する強制調査に際し、あたかも嫌疑者に対すると同様な方法でやれば、控訴人らが威圧感、恐怖感を持つことは当然である。本件でも被控訴人の職員らの態度はあたかも嫌疑者に対するのと同様であつたことが証拠上認められる。

以上述べた如く本件強制調査に際し被控訴人職員には裁判官の許可状を請求する行為において既に予断と偏見があり、第三者たる控訴人らの立場をあたかも嫌疑者と同一に考えていたもので、その権力的、高圧的姿勢が具体的執行手続にあらわれたと言うべきである。このことは控訴人会社らに対する強制調査終了後現在に至るも本件嫌疑者らは国税犯則事件として起訴されていないことからしても被控訴人職員らが当時控訴人会社らに対し該嫌疑事件の極めて重要な事実を解明できる直接あるいは間接の証拠を有する者と認めたことがすべて予断と偏見であつたことが明らかであると言わなければならない。

(被控訴代理人の反論)

1  控訴人代理人の主張1について

(一) 憲法三五条を尊重する趣旨から行政機関の行なう臨検、捜索差押についても、国犯法その他の各種の法令の規定が設けられ、いわゆる令状制度が機能していることは周知のとおりである。

そして、国犯法二条の裁判所の許可(許可令状の発付)の性質については、最高裁大法廷決定(昭和四四年一二月三日付)が明らかにしているとおり「この場合の裁判官の許可は、裁判官が本来の裁判機関としてする行為の一種すなわち裁判ではなく、裁判官が公正な立場にある一個の国家機関として他の国家機関の行なおうとする強制的な要素をもつ処分計画を事前に審査したうえ、違法等の点がなければその国家機関に対してその実施を許可するにすぎないものであり、強制処分を受けるべき者に対する関係では国家機関の内部的な行為であるにとどまり、すなわち全体としての強制処分の一要素にすぎないもの。」と考えるべきである。

ところで控訴人は、刑訴法一〇二条二項を引き合いに出して、第三者(参考人)に対する押収、捜索の要件として特に「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限る」との点が、国犯法の場合にも類推されるべきであるといい、原判決は右の点に関する事実認定に誤認があるという。しかしながら、国犯法上、嫌疑者と参考人との間に法文上の区別は存しない。即ち、国犯法一条一項は「……犯則事件を調査するため必要あるときは犯則嫌疑者若しくは参考人に対し」質問検査権があることを、二項は「犯則事件を調査するため必要あるときは参考人の所持する」物件、帳簿等の検査権を規定し、同法二条一項は「犯則事件を調査するため必要があるときは」裁判官の許可を得て捜索、差押権を規定し、三項は「許可を請求せんとするときはその理由を明示して之をなすべし」と規定するのみであつて、犯則嫌疑者と参考人に対する捜索、差押について、いずれも犯則事件を調査するため「必要あるときは」、「その理由を明示して」裁判官の許可令状の発付を受けて行なえというにすぎない。

(二) 仮に、国犯法上も参考人に対する捜索、差押の場合において、右の理由と必要性の外に刑訴法上の如く「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合」ということが令状発付の要件であると解釈される場合にあつても、本件では、右要件は十分、充たしていたものであつて何等問題視される筋合いはない。

(1) まず、許可状の請求手続について国犯法上は「理由を明示して」行なう、とのみ規定するのみで他に何等の手続規定も存しないが、右の「理由を明示して」の「理由」とは講学上は、犯則嫌疑者についての犯則嫌疑事実を指すといわれているが、それに付帯して、調査(捜索、差押)の目的、必要性は勿論のこと被調査者に押収すべき物の存在を認めるに足りる状況の存在も当然含まれるものと考える。しかして、裁判官は、右理由がなければ、令状を発付しないであろうし、理由があれば発付することになろう。

本件においては、それ以前の調査の結果から判断して、控訴人会社を重要な参考人として調査する必要性と理由があり、かつ、同会社には、捜索、差押すべき物の存在を認めるに足りる状況があつたために、被控訴人担当者において、許可状請求手続をなし、その際、それまでの調査結果の資料に基づき、犯則嫌疑者、犯則罪名、犯則嫌疑事実の指摘及び前記理由と必要性等を裁判官に疎明、提供したことにより、裁判官は右令状請求を相当と認めて発付されたものである。

他方、調査の理由と必要性として、「本件嫌疑事実を裏付け、かつ、立証するためには、密造者(製造者)の確認、密造(製造)場所と方法の確認、移出行為の実態とその方法の確認、その規模等の裏付け確認等が必須であり、これらの確認のためには、密造の元になつたタンクを賃貸し、現実に密造揮発油の移出入行為に関与した控訴人両会社を調査して証拠の収集とその保全を図る必要があつた。」こととの関連で、控訴人会社の帳簿、書類、伝票、メモ、名刺等により移出入日時と移出入量、即ち、密造日時と密造量、密造関与当事者の確定、密造油の比重等品質の裏付け確認、更には、課税原因の発生が犯則物件のうち、移出に係る数量を対象とするところ、移出日、移出量(課税標準数量)、移出場所、移出先の確認等、証拠収集を図ろうとしたのであり、また控訴人会社は、移出入の作業に直接関与していたことが判明していたのであるから、右の如き物の存在を認めるに足りる状況にあつたというべきである。

(2) 控訴人は、「タンク内で混和増量する方法をとつているとの事実は本件全証拠をもつてしてもこれを疑わしめるにたる具体的証拠は認めることはできない。」という。しかし、<証拠略>を検討すれば、タンクインの段階で混和増量され製造されたことは証拠によつて十分うかがえるはずである。

また控訴人は、「<証拠略>のうち積荷役協定書(<証拠略>)は、控訴人と全然無関係のものであり、控訴人両会社はこれらの書類を見せられたことがない」というが、控訴人会社らが右事情を何も知らなかつたとか、無関係であつたとか主張することと、当局側において、先に指摘した事項の裏付確認及び本件調査を必要としたこととは全く別の問題である。

さらに捜索の結果、十分な資料を発見し得ず、差押による十分な資料収集とならなかつたとしてもそれは結果論であつて、これをもつて右捜索差押の許可状請求と発付行為が違法となる、というものでは決してない。控訴人は、右の点を誤解しているようである。

被控訴人は、控訴人らを参考人として調査する以前に、嫌疑者は勿論のこと他の参考人をも十分調査していた訳であり、関係者の供述等収集した資料から控訴人らを調査するに至つた経緯は十分首肯されるべきである。

(三) 調査に関して、被控訴人当局の基本方針、方法において、著しい権限踰越なり、裁量権の著しい逸脱があれば違法と評価されようが、そうでない場合には、調査の方法と方針については、調査当局の判断と行動は行政上の裁量権の問題であつて、違法性を帯有するものではないと思料する。

2  同2ないし6について

控訴代理人の右主張はいずれも原審における主張の繰り返しと原判決の不当をいうものであるが、原判決の右の点に関する認定は総て正当である。

二  証拠関係 <略>

理由

当審において取調べた新証拠を加えてなした当裁判所の判断によつても控訴人らの本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものと考える。その理由は左記に付加するほか原判決の理由説示と同一であるからここにこれを引用する。

1  控訴代理人の当審における主張1について

<証拠略>によれば、被控訴人職員は昭和四八年二月頃までには、本件嫌疑事実を探知しており、右嫌疑事実を裏付けるに足りる証拠を収集していたこと、また右嫌疑事実によれば、本件嫌疑者らにより混和増量(密造)された揮発油は、控訴会社らが所有ないし管理する本件五〇一号タンクへ荷揚げされ、同タンクから一般の石油製品として移出販売されていたことが認められる。そして本件嫌疑事件名である揮発油税及び地方道路税違反の行為は、右タンクからの移出の時をもつて最終的に完成するものであるから、本件嫌疑事実を立証するためには、右密造にかかる揮発油が右五〇一号タンクに移出入される日時、方法及び同タンクにおける揮発油の質、量等を調査確認し、裏付資料を得ることは必須不可欠であるとともに、これを調査担当する職員が、同タンクを所有管理する控訴会社らが右に関連する重要な資料を所持もしくは管理しているものと考えたことはまことにもつともなことというべきである。それゆえ、被控訴人職員が前叙のとおり本件嫌疑事実を探知した状況の下において、さらにこれを立証裏付ける資料の収集のため控訴会社らに対し、予め捜索差押の必要があるとして、本件令状の請求に及んだことには何らの違法も存しない。

もつとも、控訴代理人は揮発油と溶剤の混和増量の技術的かつ具体的手段方法について、被控訴人職員らに裏付調査の不十分な点と誤解があつたことをるる非難し、それが右職員らを予断と偏見に導いたものであると主張するけれども、嫌疑事実の調査行為の性質に鑑みると、調査の過程において、当該嫌疑事実について、調査担当職員の心証と令状発付後において判明した事実との間に齟齬があつたり、それが後からみれば、裏付調査の不十分に由来するものであつたりすることは、むしろ往々にして起りうることであつて、調査担当職員に右のような裏付調査の不十分の点もしくは誤解があつたからといつて、直ちに右職員らによる令状の請求が違法となるものでないことはいうまでもない。のみならず、本件において、被控訴人職員らは本件嫌疑者あるいは本件嫌疑事実に関与した嫌疑者の従業員らから事情聴取するなどした結果、本件嫌疑事実を探知するに至つたものである以上、右嫌疑事実の如何なる点につき、さらに証拠、資料の収集、裏付調査を進めるかは当局者である被控訴人職員らの裁量に任されているというべきであつて、右嫌疑者らの本件密造行為の具体的手段方法に関する供述等が疑いを挟む余地のない程度に裏付調査した後でなければ、第三者(参考人)に対する強制調査が許されないというものではないと解される。したがつて、前記令状請求の時点において、右嫌疑者らの供述が一見して間違つていることが明らかであるなどの事情がないかぎり、仮に被控訴人職員らにおいて、この点について科学的、具体的な裏付調査を欠いたために、同職員らの誤解が生じたものであつたとしてもそのことによつて、控訴会社らに対する本件強制調査の必要性に何らの消長をも来たすものではないし右嫌疑者らの供述が一見して間違つていることが明らかであるなどの特段の事情を窺わせる証拠もない。

よつて控訴代理人の右主張は採用しえない。

なお控訴代理人は、控訴会社らが本件嫌疑者らによる密造行為に何ら関係していないし、知らないことであるから、嫌疑者として疑われる余地が全くなかつた旨を主張するけれども、そのことと、参考人としての控訴会社らに対する強制調査の必要性の有無とは別個の事柄に属するものというべきであるから、右主張自体失当というほかはない。

以上のとおりであるから、控訴代理人の当審における主張1は憲法三五条、刑訴法一〇二条二項の類推適用の点につき論及するまでもなく失当であつて採用しえない。

2  同2について

許可状記載の執行場所と具体的執行場所が異なつたからといつて直ちに右令状の執行が違法となるものではないし、その他本件令状の執行場所についてこれを違法とする点も見当らない。控訴代理人の右主張は採用のかぎりではない。

3  同3ないし6について

右の点はいずれも原判決の事実の認定を非難するにすぎないものであるところ、この点に関する原審の認定判断は正当であつて控訴代理人の主張は到底採用しえない。

よつて原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柏木賢吉 加藤義則 福田晧一)

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